健康経営のKPI・KGIはどう設定する?効果測定の指標と成功事例を徹底解説

朝倉 恒憲
朝倉 恒憲
株式会社FiNC Technologies ウェルビーイング推進室 室長 健康経営の現場を熟知した、年間数十社をサポートする健康経営エキスパートアドバイザー。中小規模法人から大規模法人まで、さらに「ブライト500」「ホワイト500」の認定支援実績も多数。

「健康経営を始めたいが、具体的にどのような目標を立てればいいかわからない」

「施策はやっているが、効果が見えにくく社内への報告に困っている」

これから健康経営に取り組む、あるいは取り組み始めたばかりの担当者様から、このようなご相談をよくいただきます。

健康経営を「なんとなくの福利厚生」で終わらせず、企業の成長につなげるためには、最終的なゴールであるKGI(重要目標達成指標)と、そこに至るプロセスを測るKPI(重要業績評価指標)の2つを適切に設定し、ストーリーとして描くことが欠かせません。

本記事では、健康経営の専門コンサルタントが、成果につながるKGI・KPIの選び方から設定手順までを分かりやすく解説します。

健康経営における「KGI」と「KPI」の違い

まず、混同しやすい2つの言葉を整理しましょう。

  • KGI (Key Goal Indicator):重要目標達成指標
  • 健康経営を通じて達成したい「最終的なゴール」です。
  • 例:労働生産性の向上、離職率の低下、企業価値(株価など)の向上
  • KPI (Key Performance Indicator):重要業績評価指標
  • KGIを達成するための「中間目標」「具体的手段」の進捗を測る指標です。
  • 例:健康診断受診率、喫煙率の低下、運動習慣者の増加

従来の健康経営では「健康診断受診率(KPI)」などの活動指標ばかりが注目されがちでした。
しかし、「なんのために受診率を上げるのか?」というKGI(ゴール)が欠けていると、経営層には成果として認めてもらえません。

「KGI(経営課題の解決)」を頂点に置き、そのために必要な要素を「KPI」として分解していく構造を作ることが重要です。

健康経営の指標を整理する「4階層のストーリー」

指標を設定する際は、施策の実施から最終的な経営成果までを「4つの階層」で整理すると、ストーリーとして繋がりが見えやすくなります。

下層のKPIを達成することで、上層のKGIが実現されるという「ロジックモデル」を意識しましょう。


【第4階層】経営・パフォーマンス指標(KGI / 最終ゴール)

企業として解決したい経営課題そのものです。

  • アブセンティーズム:病欠日数、休職者数

  • プレゼンティーズム:心身の不調により低下しているパフォーマンス(WHO-HPQ等の調査票で測定)

  • ワーク・エンゲージメント:仕事への熱意・活力

  • 離職率(特に健康起因によるもの)

【第3階層】健康アウトカム指標(健康状態の変化 / KPI)

行動変容の結果、体の状態がどう改善したか。第4階層(パフォーマンス)の土台となる健康状態です。

  • 適正体重維持者率(BMIが適正範囲内の社員の割合)

  • 有所見者率(健診で何らかの所見がある社員の割合)

  • 高ストレス者の割合

  • メタボリックシンドローム該当者・予備軍の減少率

【第2階層】意識・行動変容指標(生活習慣の変化 / KPI)

施策の結果、従業員の日常的な行動がどう変わったか。ここが変わらないと健康状態は改善しません。

  • 運動習慣のある従業員の割合

  • 喫煙率

  • 十分な睡眠がとれている従業員の割合

  • 朝食欠食率

【第1階層】プロセス指標(施策の実施状況 / KPI)

まずは施策に参加してもらうこと。スタートラインとなる指標です。

  • 定期健康診断の受診率(100%必須)

  • ストレスチェックの受検率

  • 健康イベントやセミナーへの参加率

  • 特定保健指導の実施率

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【実践】健康経営 KPI設定テンプレートと設定ステップ

いきなり指標を並べるのではなく、「逆算」で考えるのがコツです。

ステップ1:KGI(最終ゴール)を決める

自社の経営課題は何か?からスタートします。

(例:熟練社員の休職を減らし、安定稼働させたい=アブセンティーズムの改善)

ステップ2:現状のボトルネック(健康課題)を特定する

KGIを阻害している健康要因は何かをデータから探ります。

(例:健診データを見ると、休職者は生活習慣病リスクが高い傾向にある)

ステップ3:解決のためのKPIと施策を設定する

(例:生活習慣病を減らすために、「適正体重維持者率(第3階層)」と「運動習慣率(第2階層)」を追うことにしよう)

ステップ4:KPI設定シートへの落とし込み

以下のような表を作成し、管理することをお勧めします。

【健康経営 KPI設定シート(例)】

階層

役割

指標名

目標値

関連する施策

4

KGI (経営成果)

アブセンティーズム(平均病欠日数)

3日以内

健康経営全体

3

KPI (健康結果)

適正体重維持者率

65.0%

特定保健指導の強化、食事セミナー

2

KPI (行動変容)

運動習慣者比率

30.0%

定期的な歩数ランキング配信

1

KPI (プロセス)

ウォーキングイベント参加率

50%

アプリ導入、社内表彰制度

ストーリーで語る!KPI・KGI設定の成功事例

単に数字を追うだけでなく、「なぜその施策が経営課題の解決につながるのか」というストーリーを明確にした企業の事例をご紹介します。

事例A社(製造業):高年齢化する現場の生産性維持

【背景・課題】

熟練工の高齢化が進み、生活習慣病に起因する急な病欠(アブセンティーズム)が増加。生産ラインの停止リスクが経営課題となっていた。

【設定したストーリー(ロジック)】

  1. KGI(ゴール)アブセンティーズム(病欠日数)の削減による生産性安定化。

  2. 健康課題の特定:健診データを分析したところ、病欠者は「肥満」や「血圧リスク」が高い傾向にあった。

  3. KPI(健康アウトカム)「高血圧有所見者率」の低下と「適正体重維持率」の向上を目標に設定。

  4. KPI(行動変容):現場社員は運動不足になりがちなため、「1日8000歩達成者率」を指標化。

  5. KPI(プロセス):全社員対抗の「チーム対抗ウォーキング大会」を実施し、参加率100%を目指す。

【成果】

チーム対抗戦にすることで現場の連帯感が生まれ、楽しみながら運動習慣が定着(行動変容)。3年後には適正体重者が増加し(健康アウトカム)、結果として病欠によるライン停止時間が大幅に減少(KGI達成)しました。

事例B社(IT企業):若手の離職防止とエンゲージメント向上

【背景・課題】

テレワーク中心の勤務形態となり、社員間のコミュニケーションが希薄化。孤独感からくるメンタル不調や、組織への帰属意識低下による若手の離職が増加していた。

【設定したストーリー(ロジック)】

  1. KGI(ゴール)ワーク・エンゲージメント(活力・熱意)スコアの向上と、離職率の低下

  2. 健康課題の特定:ストレスチェックの集団分析で「職場の支援(相談しやすさ)」のスコアが低い部署ほど、離職率が高いことが判明。

  3. KPI(健康アウトカム)「高ストレス者比率」の10%以下への抑制。

  4. KPI(行動変容):業務外でのコミュニケーション頻度を上げるため、「雑談・相談時間の確保」を推奨。

  5. KPI(プロセス):オンラインでの「メンタルセルフケア研修」受講率と、「オンライン・ランチ会」の開催数を指標化。

【成果】

意図的にコミュニケーションの場を作ったことで「相談しやすい雰囲気」が醸成され、高ストレス者が減少(健康アウトカム)。「会社が自分たちをケアしてくれている」という信頼感が高まり、エンゲージメントスコアが過去最高を記録、離職率も改善(KGI達成)しました。

まとめ:KGIから逆算すれば、やるべきことが見えてくる

健康経営のKPI設定は、単なる数字合わせではありません。「どのボタンを押せば(KPI)、経営課題が解決するのか(KGI)」という因果関係を見つける作業です。

  1. まず、KGI(経営としてのゴール)を決める。

  2. 次に、それを阻害している健康課題を見つける。

  3. 最後に、解決するためのKPI(行動目標)と施策に落とし込む。

この順序で組み立てれば、経営層にも従業員にも響く、説得力のある健康経営が実現できます。

FiNC for BUSINESSでは、貴社の経営課題に合わせたKGI/KPIの設計から、従業員の行動変容を促すアプリの提供、効果検証のサポートまで一気通貫でご支援しています。

「自社に合った指標がわからない」というご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

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