
健康経営のKPI・KGIはどう設定する?効果測定の指標と成功事例を徹底解説
「健康経営を始めたいが、具体的にどのような目標を立てればいいかわからない」
「施策はやっているが、効果が見えにくく社内への報告に困っている」
これから健康経営に取り組む、あるいは取り組み始めたばかりの担当者様から、このようなご相談をよくいただきます。
健康経営を「なんとなくの福利厚生」で終わらせず、企業の成長につなげるためには、最終的なゴールであるKGI(重要目標達成指標)と、そこに至るプロセスを測るKPI(重要業績評価指標)の2つを適切に設定し、ストーリーとして描くことが欠かせません。
本記事では、健康経営の専門コンサルタントが、成果につながるKGI・KPIの選び方から設定手順までを分かりやすく解説します。
目次[非表示]
- 1.健康経営における「KGI」と「KPI」の違い
- 2.健康経営の指標を整理する「4階層のストーリー」
- 2.1.【第4階層】経営・パフォーマンス指標(KGI / 最終ゴール)
- 2.2.【第3階層】健康アウトカム指標(健康状態の変化 / KPI)
- 2.3.【第2階層】意識・行動変容指標(生活習慣の変化 / KPI)
- 2.4.【第1階層】プロセス指標(施策の実施状況 / KPI)
- 3.【実践】健康経営 KPI設定テンプレートと設定ステップ
- 3.1.ステップ1:KGI(最終ゴール)を決める
- 3.2.ステップ2:現状のボトルネック(健康課題)を特定する
- 3.3.ステップ3:解決のためのKPIと施策を設定する
- 3.4.ステップ4:KPI設定シートへの落とし込み
- 4.ストーリーで語る!KPI・KGI設定の成功事例
- 5.まとめ:KGIから逆算すれば、やるべきことが見えてくる
健康経営における「KGI」と「KPI」の違い
まず、混同しやすい2つの言葉を整理しましょう。
- KGI (Key Goal Indicator):重要目標達成指標
- 健康経営を通じて達成したい「最終的なゴール」です。
- 例:労働生産性の向上、離職率の低下、企業価値(株価など)の向上
- KPI (Key Performance Indicator):重要業績評価指標
- KGIを達成するための「中間目標」や「具体的手段」の進捗を測る指標です。
- 例:健康診断受診率、喫煙率の低下、運動習慣者の増加
従来の健康経営では「健康診断受診率(KPI)」などの活動指標ばかりが注目されがちでした。
しかし、「なんのために受診率を上げるのか?」というKGI(ゴール)が欠けていると、経営層には成果として認めてもらえません。
「KGI(経営課題の解決)」を頂点に置き、そのために必要な要素を「KPI」として分解していく構造を作ることが重要です。
健康経営の指標を整理する「4階層のストーリー」
指標を設定する際は、施策の実施から最終的な経営成果までを「4つの階層」で整理すると、ストーリーとして繋がりが見えやすくなります。
下層のKPIを達成することで、上層のKGIが実現されるという「ロジックモデル」を意識しましょう。
【第4階層】経営・パフォーマンス指標(KGI / 最終ゴール)
企業として解決したい経営課題そのものです。
アブセンティーズム:病欠日数、休職者数
プレゼンティーズム:心身の不調により低下しているパフォーマンス(WHO-HPQ等の調査票で測定)
ワーク・エンゲージメント:仕事への熱意・活力
離職率(特に健康起因によるもの)
【第3階層】健康アウトカム指標(健康状態の変化 / KPI)
行動変容の結果、体の状態がどう改善したか。第4階層(パフォーマンス)の土台となる健康状態です。
適正体重維持者率(BMIが適正範囲内の社員の割合)
有所見者率(健診で何らかの所見がある社員の割合)
高ストレス者の割合
メタボリックシンドローム該当者・予備軍の減少率
【第2階層】意識・行動変容指標(生活習慣の変化 / KPI)
施策の結果、従業員の日常的な行動がどう変わったか。ここが変わらないと健康状態は改善しません。
運動習慣のある従業員の割合
喫煙率
十分な睡眠がとれている従業員の割合
朝食欠食率
【第1階層】プロセス指標(施策の実施状況 / KPI)
まずは施策に参加してもらうこと。スタートラインとなる指標です。
定期健康診断の受診率(100%必須)
ストレスチェックの受検率
健康イベントやセミナーへの参加率
特定保健指導の実施率
【実践】健康経営 KPI設定テンプレートと設定ステップ
いきなり指標を並べるのではなく、「逆算」で考えるのがコツです。
ステップ1:KGI(最終ゴール)を決める
自社の経営課題は何か?からスタートします。
(例:熟練社員の休職を減らし、安定稼働させたい=アブセンティーズムの改善)
ステップ2:現状のボトルネック(健康課題)を特定する
KGIを阻害している健康要因は何かをデータから探ります。
(例:健診データを見ると、休職者は生活習慣病リスクが高い傾向にある)
ステップ3:解決のためのKPIと施策を設定する
(例:生活習慣病を減らすために、「適正体重維持者率(第3階層)」と「運動習慣率(第2階層)」を追うことにしよう)
ステップ4:KPI設定シートへの落とし込み
以下のような表を作成し、管理することをお勧めします。
【健康経営 KPI設定シート(例)】
階層 | 役割 | 指標名 | 目標値 | 関連する施策 |
|---|---|---|---|---|
4 | KGI (経営成果) | アブセンティーズム(平均病欠日数) | 3日以内 | 健康経営全体 |
3 | KPI (健康結果) | 適正体重維持者率 | 65.0% | 特定保健指導の強化、食事セミナー |
2 | KPI (行動変容) | 運動習慣者比率 | 30.0% | 定期的な歩数ランキング配信 |
1 | KPI (プロセス) | ウォーキングイベント参加率 | 50% | アプリ導入、社内表彰制度 |
ストーリーで語る!KPI・KGI設定の成功事例
単に数字を追うだけでなく、「なぜその施策が経営課題の解決につながるのか」というストーリーを明確にした企業の事例をご紹介します。
事例A社(製造業):高年齢化する現場の生産性維持
【背景・課題】
熟練工の高齢化が進み、生活習慣病に起因する急な病欠(アブセンティーズム)が増加。生産ラインの停止リスクが経営課題となっていた。
【設定したストーリー(ロジック)】
KGI(ゴール):アブセンティーズム(病欠日数)の削減による生産性安定化。
健康課題の特定:健診データを分析したところ、病欠者は「肥満」や「血圧リスク」が高い傾向にあった。
KPI(健康アウトカム):「高血圧有所見者率」の低下と「適正体重維持率」の向上を目標に設定。
KPI(行動変容):現場社員は運動不足になりがちなため、「1日8000歩達成者率」を指標化。
KPI(プロセス):全社員対抗の「チーム対抗ウォーキング大会」を実施し、参加率100%を目指す。
【成果】
チーム対抗戦にすることで現場の連帯感が生まれ、楽しみながら運動習慣が定着(行動変容)。3年後には適正体重者が増加し(健康アウトカム)、結果として病欠によるライン停止時間が大幅に減少(KGI達成)しました。

事例B社(IT企業):若手の離職防止とエンゲージメント向上
【背景・課題】
テレワーク中心の勤務形態となり、社員間のコミュニケーションが希薄化。孤独感からくるメンタル不調や、組織への帰属意識低下による若手の離職が増加していた。
【設定したストーリー(ロジック)】
KGI(ゴール):ワーク・エンゲージメント(活力・熱意)スコアの向上と、離職率の低下。
健康課題の特定:ストレスチェックの集団分析で「職場の支援(相談しやすさ)」のスコアが低い部署ほど、離職率が高いことが判明。
KPI(健康アウトカム):「高ストレス者比率」の10%以下への抑制。
KPI(行動変容):業務外でのコミュニケーション頻度を上げるため、「雑談・相談時間の確保」を推奨。
KPI(プロセス):オンラインでの「メンタルセルフケア研修」受講率と、「オンライン・ランチ会」の開催数を指標化。
【成果】
意図的にコミュニケーションの場を作ったことで「相談しやすい雰囲気」が醸成され、高ストレス者が減少(健康アウトカム)。「会社が自分たちをケアしてくれている」という信頼感が高まり、エンゲージメントスコアが過去最高を記録、離職率も改善(KGI達成)しました。

まとめ:KGIから逆算すれば、やるべきことが見えてくる
健康経営のKPI設定は、単なる数字合わせではありません。「どのボタンを押せば(KPI)、経営課題が解決するのか(KGI)」という因果関係を見つける作業です。
まず、KGI(経営としてのゴール)を決める。
次に、それを阻害している健康課題を見つける。
最後に、解決するためのKPI(行動目標)と施策に落とし込む。
この順序で組み立てれば、経営層にも従業員にも響く、説得力のある健康経営が実現できます。
FiNC for BUSINESSでは、貴社の経営課題に合わせたKGI/KPIの設計から、従業員の行動変容を促すアプリの提供、効果検証のサポートまで一気通貫でご支援しています。
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