
「健康経営」は株価・業績に直結する。「人的資本」の視点から読み解く、企業価値向上のメカニズム
「健康経営に取り組むことは、本当に会社の利益になるのか?」
「投資家や株主に対して、健康施策の価値をどう説明すればいいのか?」
健康経営の担当者様だけでなく、経営企画やIR担当者様からも、こうしたご相談が増えています。
近年、ESG投資の拡大や人的資本経営の潮流により、健康経営は単なる「従業員の健康管理」を超え、「将来の企業価値を高めるための戦略的投資」として注目されています。
実際に、経済産業省や東京証券取引所のデータにおいても、健康経営の実践企業は市場平均よりも高い株価パフォーマンスを示していることが明らかになっています。
本記事では、最新の「健康経営ガイドブック2025年3月改訂版」等のデータに基づき、健康経営が企業価値向上につながるロジックと、その効果を最大化するためのポイントを解説します。
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データで証明された「健康経営と株価」の相関関係
まず、もっとも気になる「健康経営は儲かるのか(企業価値向上につながるのか)」という点について、公的なデータを見てみましょう。
TOPIXを上回る株価パフォーマンス
経済産業省の資料によると、「健康経営銘柄」に選定された企業の平均株価とTOPIX(東証株価指数)の推移を10年間(2013年〜2023年)で比較した結果、健康経営銘柄選定企業の株価はTOPIXを上回る形で推移していることが明らかになっています 。
また、別の分析では、健康経営度調査の上位20%企業のポートフォリオは、TOPIXと比較して5年間で約30%の超過リターンを示しました 。
特筆すべきは、業種や景気要因を除いた「銘柄固有のリターン」も上昇傾向にあり、健康経営を推進する企業は「レジリエンス(不況や変化に対する耐久力)」が高いという示唆が得られています 。
利益率(ROA/ROS)の向上には「2年のラグ」がある
「すぐに利益が出るわけではない」という点も重要です。
スマートワーク経営調査のデータ分析によると、健康経営の実施から「2年のタイムラグ」を経て、総資産経常利益率(ROA)と売上高営業利益率(ROS)の双方が上昇することが確認されています。
健康経営は、即効性を求める施策ではなく、中長期的に企業体質を強化する投資であることがデータからも裏付けられています。

なぜ、健康経営で「企業価値」が上がるのか?
では、従業員が健康になることが、なぜ「株価」や「企業価値」の向上につながるのでしょうか。そのメカニズムは、「人的資本」と「社会関係資本」の蓄積によって説明できます。
① 人的資本の蓄積(生産性の向上)
健康投資を行うことで、従業員の心身の健康状態が改善し、ヘルスリテラシーが向上します。これは「人的資本(Human Capital)」の蓄積を意味します。
元気で意欲的な従業員が増えれば、アブセンティーイズム(病欠)やプレゼンティーイズム(不調による生産性低下)が解消され、個人のパフォーマンスが最大化されます。
② 社会関係資本の蓄積(組織の活性化)
健康イベントや職場環境改善を通じてコミュニケーションが活性化すると、従業員同士の信頼関係や心理的安全性が高まります。
これは「社会関係資本(Social Capital)」の蓄積と呼ばれます。
「職場のソーシャル・キャピタル」を高めることは、職場の業績につながることが経営学の研究でも示されています。
これら2つの資本が蓄積されることで、イノベーションの創出や組織の活性化が起こり、最終的に業績向上や企業価値向上へとつながっていくのです。
投資家・市場は何を見ているのか?(4つの評価軸)
健康経営による企業価値の向上は、主に以下の「4つの市場からの評価」として現れます。ガイドブックでは、これらを企業価値(様々な市場からの評価)として定義しています。

資本市場からの評価:
株価や格付け、M&A時の企業価値算定など、投資家や金融機関からの評価です。労働市場からの評価:
求職倍率や就職ランキングなど、求職者からの評価です。採用力の強化や離職率の低下に直結します。財・サービス市場からの評価:
メディア露出度やブランド価値など、メディアや消費者からの評価です。定量化されていない各市場からの「評判」:
数値化は難しいものの、各市場における企業の信頼性や評判です。
健康経営への取り組み姿勢そのものが、ステークホルダーからの信頼醸成につながります。
企業価値を高めるための「導入・実践ステップ」
単に施策を行うだけでなく、企業価値につなげるためには「戦略的な開示」が必要です。
ステップ1:健康経営戦略マップの作成と開示
自社の経営課題と健康課題、そして実施する施策がどうつながっているかを示す「健康経営戦略マップ」を作成しましょう。
投資家は、「この企業は『いつ』『何を』実現したいのか」というストーリーを知りたがっています。マップを開示することで、経営の意図を明確に伝えることができます。
ステップ2:KGI・KPIの設定とモニタリング
「なんとなく良くなった」ではなく、数値で語ることが不可欠です。
KGI(最終目標):労働生産性損失コスト、ワーク・エンゲイジメントスコアなど
KPI(中間指標):施策参加率、行動変容率(運動習慣者比率・朝食の欠食率など)
これらを定点観測し、PDCAを回している姿勢そのものが、ガバナンスの効いた経営として評価されます。
ステップ3:健康投資管理会計の活用
健康施策にかかった費用(投資)と、それによって得られた効果を可視化する「健康投資管理会計」の考え方を取り入れましょう。
「コスト」ではなく「投資」として管理し、対外的に説明できる状態にすることで、投資家との対話の質を高め、資本市場からの正当な評価獲得につなげることが重要です。
まとめ:健康経営は「コスト」ではなく「最強の投資」である
データが示す通り、健康経営は従業員を幸せにするだけでなく、企業の財務パフォーマンスや市場評価を高めるための合理的な経営戦略です。
「福利厚生の一環」で終わらせず、「人的資本への投資」として戦略的に取り組み、その成果をステークホルダーに発信していくこと。
これこそが、これからの企業に求められる本質的な健康経営の姿です。
FiNC for BUSINESSでは、健康経営戦略マップの作成支援から、アプリ・健康管理システムを活用したデータの可視化、投資対効果の分析まで、貴社の企業価値向上をサポートするソリューションを提供しています。
「自社の取り組みをどう評価・発信すればいいか分からない」というご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
【引用・参考文献】
[1] 経済産業省. "健康経営ガイドブック 2025年3月版". 健康経営優良法人認定事務局編
[2] 経済産業省. "健康経営の推進について". 2024年3月. (ガイドブック内引用)
[3] 独立行政法人経済産業研究所. "健康経営銘柄と健康経営施策の効果分析". RIETI Discussion Paper Series 21-J-037. (ガイドブック内引用)
[4] 日経 Smart Work プロジェクト. "「スマートワーク経営研究会」中間報告「働き方改革と生産性、両立の条件」". 2018年6月. (ガイドブック内引用)
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