改めて考える「ワークエンゲージメント」 今後求められる企業の取組みとは
昨今の人的資本経営・非財務情報の開示や健康経営で求められている
ワークエンゲージメントについて、改めて考えていきたいと思います。
そもそもワークエンゲージメントとは、
「従業員が仕事に対してポジティブな感情を持ち、充実している状態」を指します。
企業がワークエンゲージメントの向上に取り組むことで、離職率の低下や生産性の向上などの
効果が期待できます。
概念としては、2002年ユトレヒト大学のシャウフェリ教授らによって確立されたと言われています。
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ワークエンゲージメントとは
3つの特徴
構成する特徴として以下の3つが挙げられます。
1.活力
就業中の高い水準のエネルギーや心理的な回復力
ストレスを感じにくく、仕事を楽しみながら行える状態です。
2.熱意
仕事への強い関与、仕事の有意味感や誇り
仕事に対する興味や探求心が旺盛になるため、新しい商品やサービスを生み出したり、キャリアアップのために努力を続けることができます。
3.没頭
仕事への集中と没頭
労働者が没頭できる状態では業務の品質やスピードが向上し、
業務の効率化や人為的なミスの削減にもつながります。
ワークエンゲージメントの高い人は、
仕事に誇り(やりがい)を感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て
活き活きとしている状態にあると言えます。
また、ワークエンゲージメントは、労働者の仕事のパフォーマンスの向上に
大きくかかわってくるため、近年大きな注目を集めています。
労働者の一時的な感情ではなく持続的で全般的な感情であるといわれています。
出典)ワーク・エンゲイジメントに注目した個人と組織の活性化
(http://www.jsomt.jp/journal/pdf/063040205.pdf)
4つの概念
以下の4つの概念が従業員のワークエンゲージメントに密接に関わっています。
1.ワーカホリズム(ワーカホリック)
仕事の活動水準は高い状態を保っているものの、仕事に対して否定的な状態のことです。
自己の存在価値を仕事に求め、自己実現のために働き続けることが主眼となるため、
労働時間が過剰になったり、プライベートな時間を削ることがあります。
このような働き方が継続されると、身体的・精神的な疲労やストレスが蓄積され、健康被害を招く可能性があります。したがって、ワーカホリズムは必ずしも健康的な働き方ではなく、休息やバランスの取れたライフスタイルが重要であることが指摘されています。
2.バーンアウト(燃え尽き症候群)
ワークエンゲージメントとは対極に位置している概念です。
仕事や会社に対して不満やストレスにより、身体的・精神的な疲労感が蓄積され、ネガティブな感情に陥り社会的活動を停止し、心身共に疲弊してしまう状態を指します。
兆候としては、身体的な症状(疲労、頭痛、背中痛など)、心理的な症状(不安、うつ病、イライラ、情緒不安定など)があげられます。仕事とプライベートのバランスをとり、適切な休息やストレス解消方法を取り入れることが重要です。
3.職務満足感(リラックス)
労働者の活動水準が低く、仕事への態度・認知が肯定的である状態です。
職務満足感は、自分の仕事を評価してみた結果から生じるポジティブな心理状態を指します。 ワークエンゲージメントが仕事に取り組んでいる時の感情や認知を指すのに対し、職務満足感は仕事そのものに対する感情や認知を示す点が異なっています。
そのためリラックス状態では仕事の満足感は高いものの、活動水準が低い場合も含む点においてワークエンゲージメントとは異なります。
4.ES(従業員満足度)
従業員が仕事内容や環境、働きがいや人間関係などの様々な点において満足しているかを示す指標です。ESは従業員にアンケート調査を行うものであるため、ES向上の結果として組織力が上昇したとしても、事業の成果を創出する施策につながるとは限りません。
ワークエンゲージメントの目的は、企業の業績向上と明確化されているのがESと異なる点となります。
測定方法
ワークエンゲージメントを測定する方法は3種類あります。
1.ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(UWES)
ワーク・エンゲイジメントの3要素である、活力・熱意・没頭を直接計測できる方法が、
ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale)です。
17項目の質問形式で構成されています。
ワークエンゲージメントの測定方法のなかでも、特に高い安定性から、もっとも利用される機会が多い方法です。
2.MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)
ワークエンゲージメントと対概念のであるバーンアウトを測定し、バーンアウトに該当する数値が低ければ低いほどワークエンゲージメントが高い、という判断がなされます。
下記3つの尺度について、16項目の質問に回答することで測定を行います。
・消耗感(疲労感) 5項目
・冷笑的態度(シニシズム) 5項目
・職務効力感 6項目
3.OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)
MBI-GS同様、直接ワークエンゲージメントを測定するのではなく、バーンアウトを測定する方法になります。OLBIの質問内容は「疲弊」と「離脱」というネガティブな項目に関して行われ、
OLBIの測定結果が低いほどワークエンゲージメントが高いという評価になります。
その他、新職業性ストレス簡易調査票(新BJSQ)
1年に1度実施が義務付けられているストレスチェックで、広く使われている職業性ストレス簡易調査票(BJSQ)の、最新版になります。
ワーク・エンゲイジメントに関する質問が2項目あり、
その平均値がワーク・エンゲイジメントの点数になります。
ワークエンゲージメントが注目される背景
ワークエンゲージメントが重視される背景には、
労働人口の減少と人材の流動化が大きな要因として挙げられます。
副業の解禁や転職市場の活性化、テレワークの導入等による働き方の多様化等から、
企業が労働者との継続的な関係を維持しにくくなってきています。
参考)厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
また、労働人口の減少も進んでいるため、優秀な人材を確保し定着化させるため、
ワークエンゲージメントを高めることは必須です。
2040年には1,100万人近くの労働力供給不足が起こると言われています。
その他にも「健康経営」「働き方改革」「組織力強化」といった視点から注目を浴びています。
人的資本経営においての「従業員エンゲージメント」
人的資本経営は、人材をコストではなく、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に
引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
この人的資本経営に向けた課題と解決策をとりまとめた「人材版伊藤レポート」(経済産業省)のなかには、人的資本経営に必要な要素として「多様な個人が主体的、意欲的に取りくめているかという要素(従業員エンゲージメント)」が記載されています。
企業はただ人材を揃えるだけではなく、従業員が主体的に仕事に取り組めるよう、
エンゲージメント向上を意識した施策を行うことが一層重要となっています。
人材版伊藤レポート2.0「人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素」
健康経営においてのワークエンゲージメント
健康経営の実践により、
従業員の健康増進や企業価値向上等にどのような効果があったのか、
特に、
「プレゼンティーイズム」や「ワークエンゲイジメント」といった
業務パフォーマンスを測定する指標との関連について、
重点的に分析を実施する予定です。
令和4年度健康経営優良法人調査票では設問(評価なし)に追加。
令和5年度は評価対象設問となる見込みです。
投資家の開示ニーズと開示状況(2022健康経営銘柄選定企業紹介レポートより)
今後求められる企業の取組み
ワークエンゲージメントの把握
まずは、従業員のワークエンゲージメントレベルを定期的に把握することが重要になります。
最近では、
・エンゲージメントサーベイ専門サービスベンダー
・タレントマネジメントシステム内でのエンゲージメントサーベイ
・ストレスチェック内包のサーベイ
・パルスサーベイ形式(月1回程度の定点観測)
様々出ていますが、従業員の受験の負荷や、受験の追いかけをする担当者の工数を考えると、
ストレスチェックなどの義務内容と一緒に取得できるのが良いのではないかと思います。
健診結果や過重労働、人事考課等 複数データとの掛け合わせも重要になってきます。
健康経営2023回答企業で見ると約半数の企業がエンゲージメント測定
社外開示は20%程度
ワークエンゲージメント向上の取組み
①個人の資源
心理的なストレスを軽減し、モチベーションをアップするための、働く人個人がもつ
内的要因を示します。
具体的には、「自己効力感」「自尊心」「ポジティブ思考」などが個人の資源に当たります。
個人の資源を充実させるためには、従業員が仕事を「やらされている」のではなく
「自らやっている」と主体的に捉え直し、やりがいが持てるよう促すことが重要になります。
マネージャーから部下への仕事の権限移譲を促す(ストレッチアサイメント)、社内公募制を導入し従業員の希望に合ったアサインを行う、やりたい仕事に就くために必要な知識やスキルを学ぶ場を用意する、「ジョブ・クラフティング」の概念について学ぶこと等が挙げられます。
②仕事の資源
仕事の資源とは、仕事の効率化を測る、仕事を通じた成長実感を得られるようにするといったことを通じて、仕事へのモチベーションを高めることを指します。具体的には、上司や同僚のサポートや、仕事の裁量権、適切なフィードバック、ミッションの多様性などが挙げられます。仕事の資源を高めるためには、個人ではなく組織・チームとして能力や経験を最大限に発揮して取り組む「チームビルディング」が重要になってきます。
仕事の資源はワークエンゲージメントと相関関係にあり、仕事の資源を高めていくことで、企業に対しての信頼や仕事への意欲が向上します。
ワークエンゲージメントを高めることによる効果については、
厚生労働省「労働経済の分析」内でもまとめられています。
ワークエンゲイジメントスコアが高い方が、生産性・定着率が高い
ワークエンゲージメントが向上している企業事例
リコーリース株式会社 (7年連続健康経営銘柄認定)
全社員を対象とし、指標とする項目が網羅されている全32問で構成された、エンゲージメント調査を四半期ごとにWebで実施。
結果は、リアルタイムで集計、数値化され、閲覧することができ、すべての組織の状態を全社で
共有しています。
各組織の強み・弱みが浮き彫りになり、各々が当事者意識をもって、継続的にPDCAサイクルを回し、改善すべき点に取り組むことができます。
この社員一人ひとりの自主的な取り組みが、エンゲージメントの向上につながっています。
また、エンゲージメントスコアの結果は全社員に社内ネットワーク上にある掲示板でも共有し、
結果をもとに各組織において、強みや課題のディスカッション、アクションプラ ンの設定や改善のためのPDCAサイクルを回す取り組みを行っています。
参照:リコーリース統合報告書2022より抜粋
まとめ
社員のワークエンゲージメントを高めることで、生産性や従業員満足度の向上、離職率の低下が
期待でき、人材マネジメントの強化に繋がります。
職場環境や労働観環境を見直すことで、ワークエンゲージメントを向上させていくことが可能です。自社従業員の課題・傾向をしっかりと把握し、的確な改善施策をうつことでPDCAを回し改善が見られます。
まだワークエンゲージメントの把握をされていない企業様は、まず数値化し現状を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。
優秀な人材の定着、サスティナブルな経営にむけて、人的資産への投資が今後より重要になってくると思います。
FiNCでは、
ワークエンゲージメントの把握や、フィジカル・メンタルとの掛け合わせた分析。
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